皮膚の構造と機能 ~③感覚機能~
3. 感覚を感じる機能
感覚器
皮膚の表皮や真皮、皮下組織には温度や触覚、痛みなどを受け取る器官が存在しています。
触覚器官(触覚受容器)
構造をもった触覚の受容器には、マイスナー小体、メルケル触盤(メルケル細胞)、パチニ小体、ルフィニ終末などがあります。
マイスナー小体は、皮膚の表面に近い真皮(真皮乳頭内)にあり、順応は早く、接触した対象物の細部を認識することのできる触感を担う感覚器です。
メルケル触盤は表皮の最深部にあり、垂直方向の変形(圧による変化)によく反応し、接触した対象物の材質や形を認識する感覚器で、順応は早くありません。
パチニ小体は、皮下組織内や真皮の深部に存在する卵型の大きな感覚受容器で、振動数の高い刺激に対する感度が良く、触れたときの微細な信号を増幅して、ほんの小さな振動も感知することができます。
ルフィニ終末は紡錘形をしていて、真皮のやや深部に存在し、局所的な圧迫や横方向の皮膚の引っ張りに反応します。
温度の感覚
温度を感知する受容器は、ルフィニ終末(温感)、クラウゼ小体(冷感)、自由神経終末(温感、冷感)が知られています。
自由神経終末には、温度感受性のTRPチャネルが発現しています。
TRPV1は約42℃で活性化される侵害性熱刺激受容体と考えられています。またTRPM8は約26℃以下で活性化される冷刺激受容体です。
TRPV1はカプサイシンでも活性化されるため、トウガラシを食べると口の中が熱く感じるのはこのTRPV1が活性化されるためです。
またメントールはTRPM8を活性化するので、メントールを食べると冷たく冷涼感が得られます。
その他にもTRPV3やTRPV4は30~40℃あたりで活性化するTRPチャネルですが、ケラチノサイトに多く発現しており、ケラチノサイト自体も温度を感知していると考えられています。
かゆみと痛み
昔は「痛みの非常に軽い感覚がかゆみである」と考えられていましたが、これは現在は完全に否定されています。
かゆみと痛みは一部は伝わる神経線維の種類が同じではありますが、基本的には異なる経路をたどります。
またかゆみと痛みの原因物質も異なります。
かゆみも痛みも脳内の似た場所で感知しますが、細かくは異なった場所で感知していることが知られています。
かゆみを感じる器官・伝達経路
皮膚の感覚を脳に伝える知覚神経には、3タイプの神経線維があります。
- Aβ:最も太く(直径5~12µm)有髄神経で伝達が早い神経線維で、皮膚の触圧感覚を伝えます。
- Aδ:太く(直径1~5µm)有髄神経で伝達が早く痛みを伝えます。
- C :細く(直径1µm以下)無髄神経で、伝達は遅く、かゆみや鈍痛(打撲や内臓の痛みなど)を伝えます。
C線維はかゆみも痛みも伝えますが、共通のC線維を通るわけではなく、それぞれ別々の線維を通って別々の経路で脳に伝わります。
かゆみの原因物質
かゆみの原因物質としては以下のものが知られています。
- ヒスタミン
- インターロイキン2(IL-2)
- サブスタンスP
- インターロイキン1、8(IL-1, IL-8)
- TNF-α
- プロスタグランジン(PG)
かゆみの主犯格であるヒスタミンは、マスト細胞(肥満細胞)から分泌される物質で、神経末端のレセプターに結合して、信号が脳に送られ、かゆみとして認識されます。
アレルギーの場合は、IgE抗体が大量に体内で作られ、皮膚に移行してマスト細胞に結合し、さらにアレルゲンに結合することによってマスト細胞内のヒスタミンなどの入った顆粒を放出する(脱顆粒)することでかゆみなどの症状がでます。
一方、痛みの原因物質は、第1にはブラジキニンという物質です。
その他、プロスタグランジンやサブスタンスP、アセチルコリンなどがあり、カプサイシンや酸なども痛みの原因となります。
かゆみは、ヒスタミンなどの原因物質がなくても、ストレスなどで自律神経が乱れているときや、精神的な影響からかゆみを感じる場合があります。その際には抗ヒスタミン薬などは効き目がなく、向精神薬が効く場合もあるそうです。
かゆみの増幅スパイラル(イッチ・スクラッチサイクル)
かゆみは、掻けば掻くほどかゆくなります。
それは、「かゆい」→「掻く」→「掻いた部分が傷つく」→「傷ついた部分に炎症が起こる」→「炎症が悪化する」→「もっとかゆくなる」→「さらに掻き壊す」→「掻いた部分がさらに傷つく」→・・・という悪循環(イッチ・スクラッチサイクルと呼びます)が起こるためです。
掻くという行為によって、表皮の細胞が傷つき、炎症性サイトカインという物質が分泌されます。
それによって炎症が起こり、ヒスタミンがばらまかれることによってかゆみが増します。
またこの炎症は周辺にも広がっていきます。
皮膚が乾燥や慢性的な炎症に晒されると、表皮の細胞からNGF(神経成長因子)という物質が分泌され、神経線維が表皮の表層まで伸びてきてしまいます。そのためかゆみを感じやすいお肌になっています。
皮膚のバリア機能が壊れると、乾燥だけでなく、皮膚内部に様々な刺激が入り込み、そのような過敏な状態になり、かゆみを感じやすい状態になります。
かゆみをやわらげる
かゆみを抑えるためには、かゆみの信号の伝達を抑制することが効果的です。
そのために痛みを与えることや熱いお湯をかけることは、かゆみの伝達を抑制するため
かゆみを一時的に抑えることができますが、皮膚の細胞にダメージを与えてしまい、
かえって炎症やかゆみを増幅させることになりますので、全くお勧めできません。
逆に冷やすことは効果的です。
冷やすことによって皮膚内の酵素反応を遅らせ、神経細胞のかゆみの閾値を上げる働きもあります。
またTRPM8レセプターを活性化して、かゆみの伝達を抑えることも知られています。