お肌の健康を維持する基本

お肌の健康を維持する基本

健康なお肌とは?

健康なお肌とは、キメが整い、水分が適切に保たれている状態だと思います。
また、皮膚は最も大きな臓器と呼ばれるように、末梢の臓器としての働きももっています。
ですから、臓器としての皮膚の機能(バリアとしての機能、センサーとしての機能、クッションや新陳代謝など)が正常に保たれている状態ということもできます。

お肌の状態を表すパラメーター

  • 皮膚(表皮や角質層、真皮など)の厚さ
  • キメ、シワ、たるみ
  • 弾力性と柔軟性
  • 光への感受性
  • pH
  • 皮脂量
  • 水分量
  • 温度
  • 皮膚の色
  • 毛、毛穴の状態

そのようなお肌の状態は、角質層のバリア機能の状態に大きく左右されます。
そのため、お肌の健康を維持する最も大切な基本は「お肌のバリア機能を正常に保つこと」です。

角質層のバリア機能

角質層のバリア機能が正常であれば、お肌の内部からの水分の喪失を防いで、さらに外界からの細菌やウィルスやアレルゲンなどの異物の侵入を防ぎ、様々な刺激がお肌の内部へと侵入することを防いでくれます。
しかし、角質層のバリア機能が損傷し、低下すると、お肌の内部の水分は失われ、乾燥してしまいます。また外界から様々な刺激がお肌の内部へと侵入し、皮膚の細胞を刺激して炎症性サイトカインの分泌など様々な反応が生じます。
その結果、炎症やかゆみ、赤みなどの異常や、神経線維が表層まで伸長するなど過敏なお肌になっていきます。
角質層のバリア機能が損なわれると様々なお肌のトラブルへとつながっていくので、バリア機能が健全であるかどうかが、お肌の健康を維持する上で非常に重要です。


角質層のバリア機能の3要素

  • 皮脂膜
  • 天然保湿因子(NMF)
  • 角質細胞間脂質

1.皮脂膜

皮脂膜は皮脂腺から分泌された皮脂の油成分がお肌の表面を膜のように覆った状態です。
皮脂の成分は、主にスクワレン、トリグリセリド、コレステロール、脂肪酸などでお肌の表面で油性の膜を張ることでお肌の内部の水分が蒸散することを防ぐとともに、主成分のトリグリセリドが皮膚の常在菌の働きで分解されることによってグリセリンと脂肪酸が生じ、保湿とお肌表面のpHを弱酸性に保つことに役立っています。比較的酸化されやすい油分なので、長時間お肌の上に残しておくのはあまり良くありません。できるだけ適切に取り除いたあと、代替となるクリームなどを塗ることがお勧めです。

皮脂の分泌の少ない方、あるいは皮脂を取り除いたあとに皮脂の代替としてクリームやオイルを塗る場合、お勧めなのは、できるだけ酸化されにくいオイルを主成分としたものを使用することです。
また、お肌のpHを弱酸性に保つにはトリグリセリドを含んでいるオイルがお勧めです。スクワランはすべりがよく、エモリエント剤としてはとても好まれるオイルではありますが、お肌のpHを弱酸性に保つという意味では効果が低いので、他の植物オイルなどと混ざったものがお勧めです。
またニキビができやすい方の場合はオレイン酸を主成分としたオイルはお勧めしません。

2.天然保湿因子(NMF)

天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor)は、角質層の中にある水溶性の保湿成分の総称で、主にアミノ酸やその誘導体、有機酸やミネラル、尿素などで構成されています。
主にフィラグリンというたんぱく質が角質細胞中で分解されてアミノ酸が生じてNMFになります。

NMFは水分子との結合が強く、NMFと結合した水分子(結合水)は蒸発しにくく、乾燥した環境でもしっかりと水分を保持することができるため、角質層の保湿に重要な働きをしています。

天然保湿因子(NMF)は水溶性成分なので、水分の豊富な化粧水で補給するのが最も合理的です。化粧水には様々なタイプのものがありますが、保湿目的であれば、しっかりアミノ酸などのNMFが入っているものを選ぶのがポイントです。
NMFの入っていない化粧水だと水分の蒸発を助長してしまい、かえってお肌が乾燥してしまうのでご注意下さい。また、そのようなNMFがしっかり入った化粧水でも、理想的には、その後に後述するセラミド配合の美容液やクリームなどを使った方がより乾燥を防いでしっかり保湿することができます。

3.角質細胞間脂質

角質細胞間脂質は、角質層の細胞と細胞の間を埋める脂質の複合体です。
角質細胞間脂質の約50%を占めるのがセラミドという脂質で、その他コレステロールや脂肪酸、コレステロールエステルなどで構成されています。

角質層の模式図

角質層の模式図

角質細胞間脂質は、ラメラ構造と呼ばれる層状の構造を形成しており、親水性の領域と疎水性の領域が交互に何重にも重なって、ちょうどミルクレープのようになっています。
そのため、水分が透過しにくく、水分の喪失を防ぐと共に、親水性および疎水性のどちらの化学物質も通りにくくなっていて、強固なバリアを形成しています。

この細胞間脂質は、洗浄によって失われがちで、物理的な摩擦などの刺激やストレス、加齢など様々な要因で失われていきます。
そのため、セラミドなどの角質細胞間脂質の成分を補いバリア機能を修復するケアが必要です。
ただし、単純にセラミドを補えば良いという話ではありません。
セラミドなどがしっかりラメラ構造の状態でなければバリア機能としての役割を果たしたくれません。また、セラミドだけでなく、同じく細胞間脂質の構成成分であるコレステロールや脂肪酸も同時に配合していなければバリアの形成が弱いことが知られています。

セラミドは非常に水に溶けにくい性質を持っているので、セラミドの補給には化粧水は適していません。乳化された美容液かクリームもしくは乳液で補給するのが合理的です。

※バリア機能については「皮膚の構造と機能~①バリア機能」も参照ください。


洗顔とスキンケア

お肌の健康を維持する最も大切な基本は「お肌のバリア機能を正常に保つこと」です。
そのためのスキンケアは、基本的に「バリア機能を壊さない洗顔」と「バリア機能の維持」です。

1.洗顔

洗顔やクレンジングに含まれる洗浄成分によって、バリア機能に大切なセラミドなどの角質細胞間脂質は溶け出します。
そのため、洗顔やクレンジングという行為によって、少なからずバリア機能は壊れていきます。
ですから、メイクをしている方の場合、クレンジング(メイク落とし)をしてから洗顔するというダブル洗顔が一般的ではありますが、
2度も洗浄成分で洗う、という行為を行っているので、バリア機能を壊しやすく、お肌に負担をかけてしまっています。
できるだけ1度の洗浄行為でメイク落としと洗顔(汚れ落とし)を行い、角質細胞間脂質の溶出を最小限に留めることが理想です。

脂肪酸石けんを主成分とした洗顔石鹸や洗顔フォームは、比較的簡単なメイクであれば落とすことができるので、メイクも落とせる洗顔料として市販されています。ただ、脂肪酸石けんも洗浄力は強いので、お肌の弱い方や乾燥肌、敏感肌の方の場合にはお肌に負担となる場合もあります。
そのような方には低刺激性の合成界面活性剤を洗浄成分とした洗顔料や洗顔もできるクレンジングがお勧めです。

また洗顔の際のお湯の温度も重要です。熱いお湯で洗顔すると角質細胞間脂質が溶出してお肌を荒らしてしまいます。
ぬるま湯(30℃~35℃程度)で洗顔することをお勧めします。
33~34℃付近では、皮膚のケラチノサイト内のTRPV4という温度センサー分子が活性化され、皮膚のバリア機能を強めるという報告もあります。
また洗顔の際に強くこすることも厳禁です。摩擦はバリア機能を壊してしまいます。
やさしく洗うことが大切です。

2.スキンケア

洗顔後には、しっかりとバリア機能を修復して保湿するスキンケアが大切です。
前述した通り、スキンケアの基本は「バリア機能を正常に保つこと」です。
洗顔後は次のステップで、しっかりとバリア機能を補給してください。

  1. 化粧水で天然保湿因子(NMF)を補給する
  2. 美容液で角質細胞間脂質(セラミドなど)を補給する
  3. クリームで皮脂成分(エモリエント成分)を補給する

画一的にこれらのステップをすべて行う必要はありません。
ご自身のお肌にどの成分が不足しているのかによって、どのステップを重点的に行うかを考えてみてはいかがでしょうか。
それを知ることは容易ではありませんが、百貨店の化粧品カウンターで調べてもらうのも一案です。
また皮脂が少なく、お肌の表面がカサカサするようであれば、エモリエント成分を補うことをお勧めしますし
お肌の内部から乾いた感じがして、化粧水などぐんぐん吸い込んでいくようであれば、天然保湿因子(NMF)やセラミドが不足しています。

基本的にセラミドは、洗浄や摩擦、ストレスや加齢など様々な要因で失われがちです。
セラミドの補給は中心に据えてスキンケアを組み立てることで
ぜひ弱いお肌からの脱却を目指してください。