
顔には1c㎡あたり数万個の「菌」がいるんだって!

ぎゃー!もっと顔洗わないとヤバい!

「菌」はお肌の敵ではありません。
お肌の常在菌を味方に付ける、「マイクロバイオーム」発想スキンケアが、新・美肌習慣ですよ。
いち早くマイクロバイオームをスキンケアに取り入れた医学博士が、最新の医学的知見をご紹介しながら、その重要性を分かりやすく解説します。

神戸大学 医学部 医学博士 取得。
敏感肌の研究を専門とし、皮膚のバリア修復に注目した新しいスキンケア理論を開発。
日本美容皮膚科学会、セラミド研究会などに所属。
マイクロバイオームは微生物のコミュニティ


マイクロバイオームとは、私たちの体に住んでいる、細菌やウィルス、ダニなど、目に見えない微生物たちのコミュニティ(生態系)です。
医学的には、マイクロバイオームは「細菌、古細菌、真菌、ウイルス、皮膚であればニキビダニを含む様々な微生物で構成される微生物叢ないし、そのゲノムの集合体」と定義されます。

マイクロバイオームは「腸内フローラ(細菌叢)」と同じ?

腸内フローラ(細菌叢)は腸内の「細菌のみ」に着目した表現です。
皮膚の場合も「皮膚の常在菌フローラ(細菌叢)」という言葉はありますが、
それも「細菌のみ」に着目した表現です。
マイクロバイオームは細菌だけでなく、様々な微生物を含めた表現なので、細菌叢よりも広いカテゴリーを指す言葉です。
皮膚のマイクロバイオーム
2000年代以降次世代シーケンサーなどの遺伝子解析技術が進歩し、マイクロバイオームの研究は急速に発展しました。
ヒトの体は、顔や背中のような皮脂の多い「脂漏部位」や上腕や下腿のような乾燥しがちな「乾燥部位」など、様々な部位がありますが、それぞれにマイクロバイオームの構成(種類や比率)が異なることが知られています。

ヒトの顔の皮膚には、約1,000種の細菌が1c㎡あたり数万個ほど存在すると言われています。

多 Cutibacterium属(アクネ菌が属している属)
↓ Staphylococcus属(ブドウ球菌)
少 Corynebacterium属(コリネバクテリウム属)
*Cutibacterium属は加齢とともに減少する傾向にあります。
皮膚マイクロバイオームの主要メンバー5選

1. アクネ菌(Cutibacterium属)
肌の主役: 皮膚の常在菌の中で最も数が多い。
実は美肌の味方: ニキビの原因として忌み嫌われているが、皮脂を分解して「天然の保湿剤(グリセリン)」を作り、バリア機能を守る。普段は特に悪い菌というわけではない。
意外な特徴: 酸素のない場所を好み、加齢とともに減っていく。
2. ブドウ球菌(Staphylococcus属)
表皮ブドウ球菌(善玉): 最もメジャーな善玉菌。基本は無害で肌を守る。
S. hominis(美肌菌): 湿った場所を好む。毛穴の改善など「美肌作用」があるとの報告も。免疫が低下すると日和見感染を起こすことも。
黄色ブドウ球菌(悪玉): 炎症や化膿の原因。アトピー性皮膚炎を悪化させる代表格。
3. コリネバクテリウム(Corynebacterium属)
日和見菌: 湿った場所や脂分を好む。普段は無害だが、免疫が落ちると悪さをすることがある。
シミとの関係: シミの原因となる酵素(チロシナーゼ)を活性化させるという報告がある。
4. マラセチア(Malassezia属)
皮脂を好む「カビ」: 頭皮や顔など、脂っぽい場所に住む真菌の一種で、誰の肌にもあるカビ。
トラブルの元: 増えすぎるとフケや脂漏性皮膚炎、背中ニキビ(毛包炎)の原因に。
意外な功績: 悪玉菌(黄色ブドウ球菌)が肌に侵入するのを防いでくれる側面もある。
(Medical Mycology, Volume 63, Issue 9, September 2025)
5. ニキビダニ(毛包虫:Demodex)
顔に住む寄生虫: 顔にダニ?意外や誰の肌にも住んでいる。毛穴や皮脂腺の中に生息。
炎症の引き金: 排泄器官がなく、死ぬときに体内に溜まった老廃物を一気に放出。これが炎症や「酒さ(赤ら顔)」に関わるとされる。
寿命: 約2週間のサイクルで一生を終える。

ニキビダニは「ニキビ」と関係あるの?
ニキビ:アクネ菌の増殖による皮脂の毛穴詰まり。

このように、直接的には関係はありません。なお、ニキビダニは市販のニキビ薬が効かず、皮膚科での診断・治療が必要です。
皮膚疾患のメカニズムとマイクロバイオーム

皮膚疾患とマイクロバイオームの関係について、様々な研究が進められていますのでご紹介します。

1. アトピー性皮膚炎
「悪循環」のメカニズム:
黄色ブドウ球菌(S. aureus)が優勢になると、この菌が出す毒素や酵素が皮膚バリアをさらに破壊し、さらなる炎症を引き起こすという「負のスパイラル」に陥ります。善玉菌の減少:
単に悪玉菌が増えるだけでなく、黄色ブドウ球菌を抑える力を持つ、表皮ブドウ球菌などの善玉菌が極端に減っていることも、症状悪化の大きな要因です。多様性の回復:
最新の治療研究では、ステロイド等で炎症を抑えるだけでなく、マイクロバイオームの多様性を回復させることが再発防止に重要であると考えられています。
2. 脂漏性皮膚炎
「遊離脂肪酸」による刺激:
マラセチア菌そのものが悪さをするというより、マラセチアが皮脂を分解する際に生じる「不飽和脂肪酸(オレイン酸など)」が肌を刺激し、炎症(赤みや痒み)を引き起こすのが主なメカニズムです。個人の感受性:
マラセチアは誰にでもいる常在菌ですが、この分解産物に対して過敏に反応してしまう肌質の人に、脂漏性皮膚炎が発症しやすい傾向があります。
3. ニキビ(痤瘡)
「菌株(リボタイプ)」のバランス:
ご指摘の通り、アクネ菌は「量」ではなく「質のバランス」が重要です。健康な肌では多様なアクネ菌の株が共生していますが、ニキビ肌では特定の炎症惹起性が強い株(RT4, RT5など)が独占状態になる「ディスバイオシス」が起きています。バイオフィルムの形成:
特定の株が優勢になると、菌が「バイオフィルム」という膜を作って立てこもり、抗生物質や殺菌剤が効きにくくなることも、ニキビが治りにくい一因として注目されています。他菌種との相互作用:
最近ではアクネ菌単体ではなく、表皮ブドウ球菌とのバランスが崩れることが、毛穴の炎症の引き金になるという視点も重視されています。
4. 酒さ(しゅさ)
ダニの中に潜む「真犯人」:
毛包虫(ニキビダニ)そのものだけでなく、ニキビダニの体内に共生している細菌(Bacillus oleroniusなど)が、ダニの死後にお肌に放出され、それが免疫反応(赤みや炎症)を引き起こしているという説が有力視されています。- 他の菌の関与も議論されています:
その他にもピロリ菌や表皮ブドウ球菌、アクネ菌、肺炎クラミジアの関与や皮膚の細菌叢の多様性についても議論されていますが、まだまだ不明な点が多いのも酒さの難しいところです。

単に菌がいるかいないかではなく、菌が何を出し、私たちの肌がどう反応するかが重要です。
そして、一番重要なのは、マイクロバイオームのバランスです。
除菌から菌活へ『ディスバイオシス』と皮膚疾患
これまでは、特定の菌が悪さをして、皮膚の疾患や不調を引き起こすと考えられてきました。
現在は、菌の多様性が失われ、バランスが崩れること(ディスバイオシス)が疾患の引き金になる、あるいは悪化の要因になると考えられるようになってきています。
特定の菌を「ゼロ」にすることは不可能ですし、特定の菌を減らせば、マイクロバイオームのバランスが崩れ(ディスバイオシス)を招き、むしろ肌の健康を悪化させます。

強く美しい肌を作るために大切なことは、特定の菌を排除することではなく、マイクロバイオームのバランスを整えることなのです。

マイクロバイオームを整えるためには、どうすればいいんですか?

次の記事で、皮膚のマイクロバイオームのバランスを整える成分も紹介しながら、スキンケアのNG行為等を、より詳しく解説いたします。

参考文献
Bella Pelle, 2024, Vol 9 (4), 250 – 281
皮膚科医のための香粧品入門 金原出版株式会社
ポーラ化成工業株式会社 ニュースリリース2022/12/8


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