前回は、敏感肌が「バリア・神経の感じやすさ・免疫」という3つの要因からゆらいでいる可能性についてお話ししました。
今回は、その“ゆらぎ”とも関わりの深い、2つの肌の状態を取り上げます。
実はこの2つ、どちらも肌の“守り手”である抗菌ペプチド(LL-37)が関わっているのに、正反対のかたちでトラブルにつながると考えられているのです。
ビタミンDとの関わりも、それぞれで違ってきます。少し不思議なこの関係を、やさしく紐解いていきましょう。

ところがこの守り手は、多すぎても・少なすぎても、うまく働かないことがあるんです。
同じ成分が正反対の方向でトラブルにつながる——これが今回のいちばんおもしろいポイントですよ。
肌の“守り手”である抗菌ペプチド(LL-37)は、多すぎても・少なすぎても肌トラブルの背景になると考えられています。
・多すぎる状態:抗菌ペプチド(LL-37が)「異常な形になってしまう」ことで、赤みやほてりの背景になると報告されています
・少なすぎる状態:抗菌ペプチド(LL-37)が「足りなくなる」ことで、菌への守りが下がると考えられています
・ビタミンDとの関わりは、この2つでそれぞれ異なると考えられています
ひとつめの状態(多すぎる状態)——“守り手”が「暴走」してしまうとき
ひとつめは、顔の赤みやほてり、ぽつぽつとした状態が続く「酒さ(しゅさ)」と呼ばれる状態です。
意外なことに、この状態の肌では、守り手であるはずのLL-37がむしろ増えていることが報告されています。
「守り手が多いなら、いいことでは?」と思いますよね。ところが、ここに落とし穴があるようなのです。
問題は「量」ではなく「できあがった形」にあると考えられています。
肌には、LL-37の“もと(前駆体)”を切り出して、ちょうどよい形のLL-37に仕上げる“はさみ”のような酵素(カリクレインと呼ばれます)があります。
普段は、この仕上げがきれいに行われています。
ところがこの状態の肌では、はさみのはたらきが過剰になり、せっかく仕上がったLL-37まで切りすぎるなど、本来とは違う、炎症を起こしやすい断片にしてしまうと考えられています。
この断片が、赤み・血管の広がり・ほてりといったサインの背景になると考えられているのです。
ここでひとつ、ふしぎに思うかもしれません。
実は酒さの方は、血液中のビタミンDはむしろ低めの傾向にあると報告されています。
それなのに肌ではLL-37がたくさん作られている——これは、LL-37を増やしているおおもとが、ビタミンDではない別の要因だからだと考えられています。
顔の常在生物(毛穴にすむ小さなダニなど)や紫外線、熱などが肌のセンサー(TLR2)を刺激し、先ほどの“はさみ”のはたらきをいっそう高めてしまう——この流れが主役になっているようなのです。
ビタミンDにも、この“はさみ”やLL-37を増やす方向のはたらきがあることが知られています。
だからこそ、すでに暴走しているこの状態に、外からビタミンDのはたらきをさらに後押しすることが、プラスなのかそうでないのかは現時点ではまだ結論が出ていないとされています。
守り手を単純に増やせばよい、という単純な話ではないのですね。
ふたつめの状態(少なすぎる状態)——“守り手”が「足りなくなる」とき
ふたつめは、頭皮や小鼻のわき、眉のあたりなど皮脂の多い部分に、赤みやフケのような状態が出やすい「脂漏性皮膚炎」と呼ばれる状態です。
こちらは、ひとつめとは逆の方向の関係が知られています。
この状態の方では、血液中のビタミンDが健康な方より低い傾向にあることが、複数の研究で報告されています。
頭皮より顔まわりのほうが低めの傾向という報告もあります。
ビタミンDが不足すると、守り手であるLL-37も十分に作られにくくなります。
すると、皮膚に普通にいる菌(マラセチアという酵母のなかま)に対する守りが下がり、菌が増えやすくなって、炎症につながりやすくなると考えられています。
加えて、ビタミンDには炎症を伝える物質をおだやかにする方向のはたらきがあると報告されています。
この2つが重なることで、ビタミンDを整えることが、この状態のゆらぎにくさに関わってくる可能性があると考えられています。
実際、ビタミンDを補うことで再発がやわらいだという報告もありますが、塗るタイプでの効果は研究によって結果が分かれており、まだ確立していないとされています。
同じ“守り手”が、正反対に——だから前提としての「充足」が大切
あらためて2つを並べてみると、その違いがよくわかります。
ひとつめは「LL-37がちゃんと作られても、切り分けの仕組みが乱れて“凶器”になってしまう」状態。
ふたつめは「LL-37そのものが足りず、菌への守りが下がってしまう」状態。同じLL-37という守り手が、正反対の方向でトラブルの背景になっている——ここに、肌のふしぎさと奥深さがあります。
そして、ビタミンDとのつき合い方も、この2つでは向きが変わってくると考えられています。
ふたつめ(脂漏性皮膚炎)は、ビタミンDが足りていないことが背景のひとつなので、土台としてのビタミンD充足がプラスにはたらく可能性があります。
いっぽうひとつめ(酒さ)は、ビタミンD以外の要因で守り手が暴走している状態なので、外からビタミンDのはたらきを後押しすることには慎重さが必要だと考えられています。
同じビタミンDでも、肌の状態によって“ちょうどいい向き”が違ってくる——ここはとても大切なところです。
いずれにしても、こうした肌の状態は自己判断がむずかしく、気になる症状が続くときは皮膚科の専門医に相談していただくのがいちばんです。
そのうえで、どちらの場合にも共通していえるのは、「ビタミンDが体にきちんと足りているか」という土台の部分です。
第6回でお話ししたように、肌は必要なときに自分でビタミンDを活性化しますが、そのためには血液中のビタミンDというストックが“燃料”として欠かせません。
日ごろのビタミンD充足を意識しておくことには、やはり意味があると考えられています。

肌は、量だけでなく“バランス”と“使い方”で成り立っているんですね。
次回は、その守り手や保湿のしくみを動かす大もとの「スイッチ」そのものに注目してみますよ。
次回・第10回は「VDR(ビタミンD受容体)という“スイッチ”——加齢と受容体の話」。
ビタミンDのはたらきを受け取る“スイッチ”そのものに注目します。
実はこのスイッチ、年齢とともに減っていくことや、ビタミンDがなくても働ける意外な一面があることが知られています。
エイジングケアの新しい視点として、やさしくご紹介する予定です。お楽しみに。
より詳しい専門的な解説をお読みになりたい方は、こちらの専門家コラムもあわせてご覧ください。
▶ 専門家コラム:ビタミンDと皮膚(監修コラム)



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