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ビタミンDと抗菌ペプチドがお肌を守る仕組み

ビタミンDと抗菌ペプチドがお肌を守る仕組み皮膚科学

前回までは、ビタミンDが「レンガ」であるフィラグリンや、「モルタル」であるセラミドの産生を助けてくれるお話をしてきました。バリア機能というと、つい「乾燥を防ぐこと」ばかりに目が向きがちですが、実はビタミンDにはもうひとつ、あまり知られていない大切な役割があります。それが今回のテーマ「抗菌ペプチド」です。

今回のポイント

肌には、細菌やウイルスから自分自身を守るための「抗菌ペプチド」という小さなタンパク質が備わっていると考えられています。ビタミンDは、この抗菌ペプチドを作る遺伝子のスイッチを直接押す役割を担っているとされ、肌が生まれつき持っている「自然免疫(生まれつき体に備わっている、菌やウイルスに対する防御のしくみ)」を支える重要な存在です。

①肌が持つ「自前の抗生物質」——抗菌ペプチドとは

抗菌ペプチド(AMP)とは、細菌やウイルスなどの病原体の細胞膜に直接はたらきかけて、その働きを弱めると考えられている小さなタンパク質のことです。私たちの肌の表皮細胞(ケラチノサイト)や免疫細胞によって作られており、いわば肌が生まれつき持っている「自前の抗生物質」のような存在だといわれています。

肌は日々、目に見えない多くの菌やウイルスと接しています。それでも私たちの肌が健やかな状態を保っていられる背景には、この抗菌ペプチドが生まれつき備わった防御システム(自然免疫)の最前線として働いていると考えられています。「自然免疫」とは、特定の菌やウイルスに対抗してあとから作られる「抗体」とは違い、相手が何であってもすぐに反応できる、体に最初から備わっている防御のしくみのことです。抗菌ペプチドは、病原体の細胞膜に孔をあけるようにして直接はたらきかけるだけでなく、必要な場所に免疫細胞を呼び寄せる「合図」のような役割も担っていると報告されています。いわば、肌そのものに備わった小さな見張り番のような存在といえるかもしれません。

②ビタミンDが押す「遺伝子スイッチ」——カテリシジンとβ-デフェンシン2

数ある抗菌ペプチドの中でも、皮膚で特によく知られているのが「カテリシジン」と「β-デフェンシン2」です。ビタミンDが体の中で働くときは、まず細胞の中にある「ビタミンD受容体」という、いわば鍵穴のような場所にはまり込みます。ただ、鍵がはまっただけではまだ扉は開きません。そこにもうひとつ、別の「相棒役」となるタンパク質が合流してペアを組むことで、初めて遺伝子の特定の部分にはたらきかけられるようになると考えられています。このペアが、カテリシジンやβ-デフェンシン2をつくる遺伝子の「スイッチ」に結合し、産生を後押ししていると報告されています。

カテリシジン(別名LL-37)は、細菌・ウイルス・真菌など非常に幅広い相手に対応できるという特徴が報告されており、単純ヘルペスウイルスへの防御にも関わっている可能性があるとされています。一方のβ-デフェンシン2は、グラム陰性菌やカンジダ菌などに対して働くと考えられており、免疫細胞を呼び寄せる役割も担っているようです。この2つは役割分担をしながら、肌のうえで日々静かに働いてくれていると考えられています。

興味深いのは、これらの抗菌ペプチドの産生が、紫外線や食事から得たビタミンDのストックによって左右されるという点です。つまり、ビタミンDが不足しがちな生活が続くと、こうした肌本来の防御のしくみも、十分に働きにくくなってしまう可能性があると考えられています。

医学博士
医学博士
「肌の表面って、実はとても静かな戦場なんです。抗菌ペプチドは、その最前線で黙々と働いてくれている縁の下の力持ちなんですよ」

③敏感肌・ゆらぎ肌との関わり

アトピー性皮膚炎の症状が出ている部分では、カテリシジン(LL-37)の産生が低下していることが報告されています。そこにビタミンD不足が重なると、抗菌ペプチドの働きがさらに低下しやすくなり、肌が外部の刺激に対してゆらぎやすい状態につながる可能性があると考えられています。

実際に、ビタミンDを補うことでLL-37の発現が回復し、肌の状態が整いやすくなったという臨床報告もあります。もちろん、抗菌ペプチドの量だけで肌の状態がすべて決まるわけではありませんが、フィラグリンやセラミドといった「物理的なバリア」に加えて、こうした「防御のためのタンパク質」もビタミンDによって支えられていると考えると、敏感肌ケアにおいてビタミンDが担っている役割の大きさが見えてくるように思います。

敏感肌・乾燥肌の方にとって、ビタミンDが単なる「保湿」だけでなく、肌を守る力そのものに関わる栄養素だということが、少しずつ見えてきたのではないでしょうか。日々のスキンケアでは見えにくい部分だからこそ、こうした仕組みを知っておくことは、肌との向き合い方を考えるひとつのヒントになるかもしれません。

医学博士
医学博士
今回ご紹介した抗菌ペプチドは、肌のバリア機能・保湿力とはまた違う角度から、肌を守る仕組みです。ビタミンDが「保湿」だけでなく「防御」にも関わっているというのは、少し意外に感じられたかもしれませんね。次回は、この抗菌ペプチドがどんな時に、どうやって作られるのかを、もう少し掘り下げてお話しします。
次回予告

第6回では、「感染時に皮膚が自分でビタミンDを活性化する——TLR経路の仕組み」というテーマで、肌が病原体の侵入を感知したときに、日光や腎臓に頼らずビタミンDを自らアクティブにする、体の緊急システムについてご紹介する予定です。お楽しみに。