酒さは、「赤ら顔」とも言われる症状で、主として中高年の顔面に生じる原因不明の慢性炎症性疾患です。
その原因はまだ完全に解明されていませんが、最新の研究で注目されているのが、TRPV1、TLR2といった受容体の働きや、皮膚の微生物叢(マイクロバイオーム)です。
本記事では、医学博士である高岡が、最新の酒さ研究に基づき、これらの詳しいメカニズムから、日々のスキンケアに取り入れる方法、話題の菌活スキンケアまで、分かりやすく解説します。
この記事は、敏感肌研究を専門とする医学博士、高岡幸二が執筆しています。

神戸大学 医学部 医学博士 取得。
元神戸大学バイオシグナル研究員、元奈良女子大学非常勤講師。敏感肌研究を専門とし、化粧品・健康食品の開発に携わる。
日本美容皮膚科学会、セラミド研究会などに所属。
酒さを悪化させる「受容体」を抑制するケア

酒さ悪化に関わる2つの受容体
酒さの症状が悪化する背景には、皮膚内部の角化細胞、肥満細胞、好中球など、様々な細胞の働きが関係しています。
これらの細胞は、特定のメディエーター(情報伝達物質)を介して、皮膚のバリア機能、神経の応答、免疫系の反応、炎症、血管の拡張といった複合的なプロセスに影響を与えています。
近年、特に酒さの病態との関連で注目されているメディエーターとして
- TRPV1(温度感受性TRPチャネルV1)
- TLR2(Toll様受容体2)
の、2つの受容体が挙げられます。
TRPV1:熱や刺激を感知するセンサーと酒さ

TRPV1は、主に温度や特定の化学物質(例:唐辛子のカプサイシン)を感知する「センサー」のような受容体です。
唐辛子を食べたときに辛さと同時に熱さを感じるのは、TRPV1が活性化するためです。
TRPV1が酒さにどう関わるのか
酒さの肌では、このTRPV1が過剰に活性化しやすい状態にあると考えられています。
TRPV1が活性化すると、痛みや刺激を感じやすくなり、炎症が生じて酒さの症状(赤み、ほてり感など)が悪化してしまいます。
TRPV1へのアプローチと化粧品成分
TRPV1の活性化を抑制することは、酒さの症状悪化を防ぐ上で有効な手段と考えられています。このメカニズムに着目した化粧品原料も開発されており、以下のような成分が知られています
※薬機法上、化粧品で具体的な効果効能を謳うことはできません。
- ペンタペプチド-59: イソギンチャクの毒素を模して作られたペプチドで、TRPV1の働きを抑制する可能性があります。
- セイヨウシロヤナギ樹皮エキス: 植物由来の成分で、TRPV1へのアプローチが研究されています。
- コレステロール: 皮膚のバリア機能にも重要な成分で、TRPV1の機能を阻害することが報告されています。

これらの成分を配合したスキンケア製品を選ぶことは、TRPV1の過剰な反応を穏やかにし、酒さの肌への刺激を和らげる一助となる可能性があります。
TLR2:自然免疫応答と炎症のキープレイヤー

TLR2は、病原体などを認識して「自然免疫応答」を活性化する受容体の一つです。
酒さの肌ではこのTLR2が過剰に反応することで、不必要な炎症を引き起こしてしまうと考えられています。
TLR2が酒さにどう関わるのか
TLR2はニキビの増悪因子としても知られており、酒さの病態においても重要な役割を果たしていることが示唆されています。
過剰に活性化されたTLR2が、炎症性サイトカインの産生を促し、赤みや丘疹・膿疱などの症状を悪化させる一因となるのです。
TLR2へのアプローチと化粧品成分

TLR2の過剰な働きを抑制することも、酒さの症状改善に繋がる可能性があります。
原料メーカーの調べでは、ユキノシタエキスにTLR2の働きを抑制することが報告されており、酒さへの応用が期待されています。
皮膚マイクロバイオームのケア:菌活スキンケア
このように、酒さの病態には、肌の「自然免疫応答」が深く関わっていますが、

この自然免疫応答と、皮膚に存在する様々な微生物の集まりである「皮膚マイクロバイオーム(微生物叢)」との関連性も近年注目されています。
皮膚マイクロバイオーム(微生物叢)とは

皮膚マイクロバイオームは、肌表面に存在する多種多様な細菌や真菌などの「微生物の生態系」です。
- 肌のバリア機能を強化し、外部からの刺激や病原菌の侵入を防ぐ。
- 免疫システムの適切な働きを助け、肌の健康を維持する。
といった働きを持っており、この微生物叢のバランスが崩れると、ニキビや酒さなど様々な肌トラブルに繋がるため、バランスを整えるケアが重要視されています。
皮膚マイクロバイオームと酒さの関係
酒さの患者さんでは、特定の皮膚常在菌のバランスが崩れていることが観察されることがあります。
- 毛包虫(ニキビダニ)の増加: 酒さ患者の肌で毛包虫が増加しているケースが報告されています。毛包虫が直接的な原因とは考えられていませんが、間接的にTLR2などの自然免疫系を刺激し、炎症反応や症状悪化を導いている可能性が指摘されています。
- その他の常在菌: 表皮ブドウ球菌やアクネ菌(ニキビの原因菌)をはじめ、様々な菌の関与が議論されています。

いずれにしても、皮膚のマイクロバイオームを正常に保つことが、酒さの症状悪化を防ぐ上で重要であるという認識が広まっています。
マイクロバイオームを整える「菌活スキンケア」
皮膚のマイクロバイオームのバランスを正常に保つことを目的とした化粧品原料も開発され、「菌活スキンケア」として話題にもなっています。
皮膚の常在菌叢を整える働きを持つ成分(例:オリゴ糖など)の「プレバイオティクス」が配合されているものなど、酒さのホームケアの選択肢の一つとしておススメです。
【注目】クロレラエキスde菌活スキンケア

特に、とあるメーカーが開発したクロレラエキスは、クロレラの細胞壁のみを抽出し精製することで、アレルギー原因となりやすいタンパク質を除去しており、敏感肌の方にもおすすめできるプレバイオティクス原料として注目されています。
クロレラエキスの効果
- 肌の善玉菌アップ+抗菌ペプチド産生の促進により、悪玉菌を減らして炎症を抑える
- EGF様作用により、肌再生を促す
- 皮脂抑制効果
- コメドの減少
- 抗炎症、赤みの軽減
- ブルーライトの影響を減らす

このクロレラエキスが、肌の常在菌叢を整え、健やかな肌環境へと導いてくれます。
≫ クロレラエキスを医学博士が詳しく解説した記事はこちら→敏感肌を改善する新成分5選
おわりに:最新研究を日々のケアに活かす
今回の記事では、酒さの最新メカニズムとして、2つの受容体「TRPV1・TLR2」と、皮膚マイクロバイオームという、専門的な研究内容を解説しました。
酒さの肌がなぜ特定の刺激に敏感に反応するのか、なぜ赤みやブツブツが治りにくいのか。その背景には、今回ご紹介したような複雑な生体メカニズムが潜んでいます。

以下の成分を取り入れ、最新の研究を日々のケアに活かしてみてはいかがでしょうか。
- TRPV1の活性化を抑制する成分
(ペンタペプチド-59等) - TLR2の過剰な働きを抑制する成分
(ユキノシタエキス) - 皮膚マイクロバイオームを整えるプレバイオティクス
(クロレラエキス等)
【重要】 酒さの診断や治療は、必ず皮膚科専門医にご相談ください。
DSRスキンケアでは、常に最新の皮膚科学研究に基づき、酒さで敏感になった肌にも寄り添う製品開発に取り組んでいます。専門的な知見を日々のスキンケアに取り入れ、酒さで悩む方々がより快適な生活を送れるよう、今後も情報発信を続けてまいります。
≫ 酒さの基本的な情報から治療法まで網羅した【医学博士監修】酒さ徹底解説はこちら
≫【酒さ・酒さ様皮膚炎アンケート】これで改善・悪化・乗り切った!体験談はこちら
参考文献
日本皮膚科学会 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン 日皮会誌133,407-450 (2023)
皮膚科医のための香粧品入門 皮膚科医の臨床 Vol.56 No.11 (2014) 金原出版株式会社
“酒皶とマイクロバイオーム”, 山﨑研志 Bella Pelle, Vol.9, No.4, 2024


人気記事ランキング