酒さは、「赤ら顔」とも言われる症状やニキビに似た症状などを含め、主として中高年の顔面に生じる原因不明の慢性炎症性疾患です。
本記事では、医学博士である高岡が、2023年に日本皮膚科学会によって制定された最新のガイドラインに基づいて、
酒さの基本的な知識から症状に合わせた薬や治療法、そして日々のスキンケアのポイントまで網羅し、一般の方にも分かりやすく解説します。
著者の紹介
敏感肌研究を専門とする医学博士、高岡幸二が本記事を執筆しています。
長年にわたり敏感肌のメカニズムとケアについて深く研究。その専門知識と敏感肌スキンケア化粧品の開発経験に基づき、酒さで悩む方々へ、信頼できる最新の情報をお届けします。
酒さとは:2023年日本皮膚科学会ガイドラインより
「酒さ」とは、主として中高年の顔面に生じる原因不明の慢性炎症疾患です。

酒さ症状のポイント
慢性炎症性疾患
一時的な肌荒れではなく、長期にわたって炎症が続くのが特徴です。自覚症状としては、突発的な火照り感や熱感、突発的な短時間の紅斑などの発作性の潮紅が特徴と言われています。ほとんどの症例では鼻の周りや頬に毛細血管の拡張がみられ、炎症反応が強くなると丘疹や膿疱の症状がでてきます。
顔面に出やすい
頬、鼻、額、あごなど、顔の中心部に症状が出やすい傾向があります。
原因不明
酒さの根本的な原因は不明です。酒さの症状を「悪化させる要因」は多岐にわたるので、酒さの増悪因子として後述します。増悪要因を取り除くことが、症状の改善に繋がります。
「酒さのタイプ」に基づく治療のガイドラインとは
症状のタイプ(段階)と2023年日本皮膚科学会ガイドラインによるそれぞれの詳細な説明をして参ります。
ご自身の症状がどれに当てはまるか、セルフチェックの参考にしてください。
第1度:紅斑毛細血管拡張型酒さ

症状: 顔面の持続的な赤み(紅斑)、細い血管が浮き出て見える(毛細血管拡張)、ほてり感や熱感を伴う。
特徴: いわゆる「赤ら顔」と呼ばれるタイプで、顔の赤みが主な症状です。
第2度:丘疹膿疱型酒さ

症状: ニキビに似た赤いブツブツ(丘疹)や膿を持ったブツブツ(膿疱)が顔面にできる。
特徴: ニキビと異なり、毛穴の詰まり(面皰・コメド)を伴わないのが大きな違いです。
第3度:瘤腫型酒さ・鼻瘤

症状: 鼻部を中心に皮膚が厚くなり、でこぼことしたしこり(瘤腫)を形成する。
特徴: 長期にわたる炎症が原因で、皮膚組織が変化した状態です。特に鼻に現れるものを「鼻瘤」と呼びます。
眼合併症:眼型酒さ
症状: まぶた(眼瞼)や目の結膜の充血、炎症、乾燥感、異物感、かゆみなどを伴う。
特徴: 顔の皮膚症状と同時に、または先行して目の症状が現れることがあります。

これらのタイプは、単独で現れることもあれば、複数混在することもあります。
*2023年日本皮膚科学会ガイドラインより
酒さの自己判断がNGな理由:診断は皮膚科専門医へ
上記のように酒さは分類されていますが、その診断は非常に難しいのが現状です。
なぜなら、酒さの症状が他の皮膚疾患と非常に似ているからです。

酒さは、その症状が多様であり、他の一般的な皮膚トラブルと区別がつきにくいことが多いため、専門知識を持つ皮膚科医による診察が不可欠です。自己判断で市販薬を使用したり、不適切なスキンケアを続けることで、かえって症状を悪化させてしまうリスクもあります。
第1度:紅斑毛細血管拡張型酒さと類似
光線過敏症、日光皮膚炎、接触皮膚炎、口囲皮膚炎、酒さ様皮膚炎などに症状が似ていることがあります。
第2度:丘疹膿疱型酒さと類似
ニキビ(尋常性痤瘡)と非常に似ています。
- ニキビとの決定的な違い
酒さは、ニキビに見られる毛穴のつまり(面皰・コメド)を伴いません。
≫面皰・コメドとニキビの原因について解説した記事【スキンケア入門ゼミ】
酒さ全般と類似
敏感肌の方が感じる刺激感と似ていたり、脂漏性皮膚炎などと合併しやすい特性があります。

このように、酒さの診断は非常に高い性が要求されるため、自己判断せず、必ず皮膚科専門医に相談することが最も重要です。
実際に、弊社で行ったアンケートでも化粧品で症状が改善せず、皮膚科を受診した人が多いことがわかりました。
≫酒さ・酒さ様皮膚炎に関するアンケート結果:発症のきっかけ・診断・治療編
2023年ガイドラインに基づく最新の酒さ治療方針の解説

かつて2017年の「尋常性痤瘡治療ガイドライン」では、酒さについての言及はあるものの、スキンケア推奨程度で明確な治療法は提示されていませんでした。
しかし、2023年の改訂では、名称も「尋常性痤瘡・酒さ治療ガイドライン2023」となり、酒さに関する記述が大幅に拡充されました。
2023年のガイドライン改訂では、酒さに関する記述が大幅に増加しました。これは、酒さへの理解が進み、治療法が拡充し、確立されつつあることを示しており、患者さんにとって喜ばしい進展です。
日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒さ治療ガイドライン2023」より抜粋・改変し、病型ごとの治療法を分かりやすくまとめ、医学博士高岡が解説をしました。
| 病型 | 推奨度 | 外用療法 | 内服療法 | 理学療法・外科的治療 |
紅斑毛細血管 拡張型酒さ (第1度) | C1:推奨 | ・スキンケア | ・パルス色素レーザー ・Nd:YAGレーザー ・Intense pulsed light | |
| C2: 推奨しない | ・漢方 | |||
丘疹膿疱型酒さ (第2度) | A:強く推奨 | ・メトロニダゾール | ||
| C1:推奨 | ・アゼライン酸 ・スキンケア | ・ドキシサイクリン ・ミノサイクリン ・テトラサイクリン | ||
| C2: 推奨しない | ・イオウカンフルローション | ・イベルメクチン ・メトロニダゾール ・漢方 | ・レーザー治療 | |
| 瘤腫型酒さ・鼻瘤(第3度) | C2: 推奨しない | ・外科的切除 ・炭酸ガスレーザー ・Nd:YAGレーザー |
A :強く推奨する
B :行うよう推奨する
C1:選択肢の一つとして推奨する
C2:十分な根拠がないので推奨しない
D:行わないよう推奨する(無効あるいは有害である)

Aは強く推奨される治療法です。
Bは酒さに関しては今回のガイドラインではありませんでした。
C2は現時点では推奨しないということですが、行ってはいけないということではなく、実際の症状を見て個別に効果が期待できそうと医者が判断した場合に処方されることがあります。
Dはやってはいけないという治療法ですが、今回のガイドラインにはありませんでした。
それでは、酒さのタイプ別に解説して参ります。
第1度:紅斑毛細血管拡張型酒さ
【外用】スキンケア
【理学外科的】パルス色素レーザー(595nm)
【理学・外科的】Nd:YAGレーザー(1,064nm, ロングパルス)
【理学・外科的】Intense pulsed light (IPL)
【内服】漢方
いわゆる「赤ら顔」が主症状である紅斑毛細血管拡張型酒さでは、残念ながら劇的に効果的な治療薬はまだありません。(強く推奨されている治療法がない)
そのため、日々の丁寧なスキンケアで症状の悪化を防ぎながら、時間をかけて改善を目指すことが重要です。また、レーザー治療などの理学療法が、赤みや毛細血管拡張の改善に有効な選択肢となります。
第2度:丘疹膿疱型酒さ
【外用】メトロニダゾール
【外用】アゼライン酸
【外用】スキンケア
【内服】ドキシサイクリン
【内服】ミノサイクリン
【内服】テトラサイクリン
【外用】イオウカンフルローション
【内服】イベルメクチン
【内服】メトロニダゾール
【内服】漢方
【理学・外科的】レーザー治療
このタイプでは、ロゼックスゲル0.75%(メトロニダゾール)が「強く推奨」される効果的な治療薬として位置づけられています。症状に悩む多くの方にとって、大きな希望となるでしょう。
また、アゼライン酸も選択肢として推奨されており、日本では医薬品としてはありませんが、化粧品では選択することができ、スキンケアの選択肢が広がりました。
第3度:瘤腫型酒さ・鼻瘤
【理学・外科的】外科的切除
【理学・外科的】炭酸ガスレーザー
【理学・外科的】Nd:YAGレーザー(1,064nm, ロングパルス)
なお、ガイドラインでは眼型(眼合併症)酒さの眼科的治療には言及していませんが、併存する皮膚症状に関しては上記に従う、とされています。
医学博士高岡の注目薬・成分
治療薬「ロゼックスゲル」の保険適用
特に大きなトピックは、2022年に酒さ治療薬として「ロゼックスゲル0.75%」が保険適用されたことです。

主成分:メトロニダゾール
作用: 抗細菌、抗原虫、抗酸化、抗炎症、スキンバリアの改善など、多角的な効果が期待できます。
それまでは、酒さの治療にはイオウカンフルローションのみが保険適用でしたが、酒さへの効果は限定的でした。

ロゼックスゲルの登場は、酒さ治療の選択肢を大きく広げるものとなりました。
【注目】アゼライン酸
メトロニダゾールは医薬品ですので、皮膚科医院を受診しなければ使用することはできませんが、反対にアゼライン酸は日本においては医薬品ではなく、化粧品として市場にも出回り始めています。
その効果は注目されており「C1:選択肢としては推奨」されていますので、試してみる価値が高いと思われます。
次の章で、その取り入れ方も詳しく解説します。
大注目!アゼライン酸の作用機序と効果

海外では医薬品、日本では化粧品成分
ニキビ治療などにも用いられるアゼライン酸は、海外では医薬品として承認されていますが、日本では現在のところ治療薬としては未承認で、化粧品成分として市場に出回っています。
しかし、その効果は多くの研究で注目されており、ガイドラインでも「選択肢としては推奨」されています。
アゼライン酸を皮膚科での治療と併用したり、予防的なスキンケアとして試してみる価値は高いと言えるでしょう。
アゼライン酸の主な効果
角化抑制作用: 毛穴の詰まりを防ぎ、肌のターンオーバーを正常に保ちます。
抗菌作用: 酒さの悪化因子となる菌の繁殖を抑え、皮膚常在菌のバランスを整えます。
抗炎症作用: 赤みや炎症を鎮めます。
皮脂分泌抑制作用: 過剰な皮脂の分泌を抑えます。
これらの作用から、ニキビや酒さのケアに効果が期待される成分です。
アゼライン酸の副作用と適切な濃度
副作用は比較的少なく、安全性の高い成分とされています。
ただし、使用初期に軽い刺激感(ヒリヒリ感、かゆみなど)を感じることがありますが、時間の経過とともに軽快することが多いです。

アゼライン酸配合化粧品って、濃度がいろいろあるけど、やっぱり高濃度が効きますよね?
15%~20%といった高濃度のアゼライン酸は医薬品レベルに相当するため、自己判断での日常的な使用はお勧めできません。皮膚科医と相談しながら使用するのが賢明です。
皮膚科で取り扱っているアゼライン酸化粧品の種類は少ないので、合わない場合等は、市販のアゼライン酸化粧品から合うものを選んでみてください。
ただし日常的なスキンケアとしては、低濃度(1~3%程度)のアゼライン酸配合製品から試すのが良いでしょう。
アゼライン酸についてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
≫アゼライン酸の効果・使い方・注意点を【医学博士監修】記事で詳しく見る
酒さに効果的「低刺激スキンケア」方法・選び方

今回のガイドラインでも酒さに関して、スキンケアは「選択肢の一つとして推奨」されており、その重要性は非常に高いとされています。
適切なスキンケアは、症状の悪化を防ぎ、治療効果を高めるために不可欠です。
酒さの増悪因子を避ける
酒さの症状を悪化させる可能性のある要因は多岐にわたります。これらを避けることが、症状コントロールの第一歩です。
環境の変化: 日光曝露、紫外線、高気温、熱い風呂、温かい室内、湿気、風、低気温など
食餌性: アルコール摂取、香辛料、熱い飲み物、特定の果物や野菜(※個人差が大きい)
心身変化: 心理的ストレス、激しい運動、体調不良、特定の疾患
外的因子: 特定のスキンケア用品や化粧品、医薬品(ステロイド外用薬の不適切な長期使用など)、日用品
酒さ低刺激スキンケア「3つの基本」
酒さの症状を持つ肌は非常に敏感で、外部刺激に弱く、バリア機能が低下していることがほとんどです。そのため、肌への負担を最小限に抑え、健やかな状態を保つための丁寧なスキンケアが不可欠となります。
1.洗顔:肌の負担を減らし清潔を保つ
皮脂や汚れが残っているとそれが刺激となり、肌荒れや炎症が起こって酒さの悪化要因となります。
しかし、洗顔は直接バリア機能を低下させて、炎症が起こりやすくする可能性もあるため、バリア機能を低下させない洗顔がとても重要です。
低刺激な洗浄剤を使用: 肌への負担が少ない、弱酸性やアミノ酸系などの低刺激性の洗浄剤を選びましょう。
洗い過ぎない: 1日2回程度にとどめ、ゴシゴシ擦るなどの摩擦は厳禁です。
ダブル洗顔は避ける: 肌に必要な潤いまで奪ってしまう可能性があるため、できれば避けるのが望ましいです。メイクをした日は、ダブル洗顔不要の洗顔料(あるいはクレンジング)を使用するか、低刺激性のクレンジング剤で優しくメイクを落とした後に軽い洗顔で済ませるようにしましょう。ダブル洗顔の不要なメイク(ミネラルメイクなど)を選択するのも一案です。
≫【医学博士監修】まだダブル洗顔してるの?敏感肌のセラミドケアはクレンジングから見直すべき理由とは
2.保湿:低下したバリア機能を補い肌を守る
酒さの肌はバリア機能が低下し、乾燥や外部刺激に弱くなっています。保湿剤で潤いを補給することで、バリア機能を修復・強化し、乾燥やかゆみ、ヒリつきといった不快感を和らげます。肌が十分に保湿されることで、刺激から肌を守り、炎症の鎮静化をサポートし、健やかな状態を保ちます。
しっかり保湿: 肌のバリア機能が低下しているので、バリア機能を意識した、セラミドやNMF(天然保湿因子)などを補給できる保湿剤を選びましょう。
低刺激な成分: 酒さの肌はかなり敏感になっていることが多いので、シンプルで低刺激な成分で構成された保湿製品を選ぶことも大切です。
≫【医学博士監修】酒さ肌に合った化粧品選びのポイントとスキンケア相談事例
3.紫外線対策:酒さの最大の増悪因子から肌を守る
紫外線は、酒さの赤み、ほてり、炎症、丘疹・膿疱などの症状を誘発・悪化させる最大の原因の一つです。紫外線から肌を徹底的に守ることで、症状の悪化を防ぎ、バリア機能へのダメージを最小限に抑えます。
紫外線を避ける: 物理的に日傘や帽子で紫外線を避けつつ、日焼け止めを併用しましょう。日焼け止めもできるだけこまめに塗りなおしましょう。
日焼け止めの使用: 低刺激性で肌に合ったものを選び、SPF値が高すぎない、PA値も適度なものを選びましょう。紫外線吸収剤フリー(ノンケミカル)処方のものが、比較的低刺激なのでおすすめです。
摩擦を避ける: 日焼け止めを塗る際も、肌を強く擦らないように優しくなじませましょう。
敏感肌さんの日焼け止め選びは、この敏感肌さんの紫外線対策の「敏感肌さんの日焼け止め選びガイド」を参考にしてください。
≫【これダメ】秋冬は日焼け止めキャンセル界隈の一員♪←医学博士が肌老化を警告!
酒さのスキンケア「重要な注意点」とは

酒さの肌は非常に敏感になっているため、使用する化粧品やサンスクリーン化粧品が刺激や赤みの増悪原因となることも少なくありません。
そのため、「敏感肌用のシンプルで低刺激な化粧品」の中から、ご自身の肌に合うものを見つけることが非常に大切です。
新しい製品を試す際は、必ずパッチテストを行うなど、慎重に進めましょう。
酒さがどんどん悪くなる…こんなNGケアしてませんか?
≫ 【医学博士監修】無意識にやっているかも?酒さが悪化するNGスキンケア5選
おわりに:酒さで悩む方へ
シェルシュールでは、皮膚科学に基づいた敏感肌研究の知見から、酒さで敏感になった肌にも寄り添うスキンケア製品の開発に取り組んでおります。
そのため、多くの酒さ・酒さ様皮膚炎のお客様からご相談を頂いております。
どうにも改善しない症状に、一人で悩んでいませんか?


一人で悩んでしまうことの多い疾患ですが、経験豊富なスキンケアアドバイザーに、まずは相談ください。(私も敏感肌です)
*酒さを疑う場合は、まず皮膚科を受診されることを強くお勧め致します。
そして、酒さに関する情報が少ない、同じ症状の人が周りにいない、という相談者様のお悩みに応える形でアンケートを実施し、結果を公開しております。

試してみたい化粧品や対策法、改善のきっかけ、落ち込んでいた気持ちに刺さる同士のリアルな体験や言葉…何か見つかったら嬉しいです。
なお、次回は酒さの最新メカニズムに関連した「TRPV1・TLR2・マイクロバイオーム」についても解説いたしますので、ご期待ください。
参考文献
日本皮膚科学会 尋常性痤瘡・酒さ治療ガイドライン 日皮会誌133,407-450 (2023)
皮膚科医のための香粧品入門 皮膚科医の臨床 Vol.56 No.11 (2014) 金原出版株式会社














かつてはニキビと混同されることもあり、似ているところも多いものの、全く異なる疾患ですので、適切な診断と治療が非常に重要です。
また、主として中高年に多い疾患ということですが、弊社で行ったアンケートでは、20代、30代の方も少なくありませんでした。