アゼライン酸とは
まだあまり知られていませんが、ニキビなどに効果があり、
注目度の高い成分「アゼライン酸」についてご紹介したいと思います。
ニキビの原因は様々ですが、その主なものとしては次の4つがあげられます。
- 角化の異常:セラミドの不足などでバリア機能に異常が生じ、その結果角化の異常により毛穴が塞がってしまいます。
- 皮脂の分泌の増加:男性ホルモンなどの影響で皮脂が多く分泌されます。また皮脂の組成にも異常が生じます。
- アクネ菌の増殖:通常は皮膚の常在菌の一つですが、毛穴が塞がって酸素の少ない状態で、皮脂が多い状態であれば異常増殖します。
- 炎症:菌の増殖によって炎症が生じます(赤ニキビ)。
アゼライン酸は、小麦やライ麦、大麦などの穀物や酵母に含まれている天然物由来の飽和ジカルボン酸です。
30年以上も前から海外ではニキビ治療に用いられています。
アゼライン酸は軽度~中程度のニキビ、非炎症性皮疹(面皰、コメド)や炎症性皮疹(丘疹、膿疱)など広く使用されています。
催奇形性は見られず、遺伝毒性試験や耐性獲得試験は陰性で、とても安全性が高いと言われています。

アゼライン酸の作用
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- 抗菌性
アゼライン酸によりニキビの発症に関係しているP.acnesが減少し、低pH環境では抗菌性を発揮します。
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- 角化抑制
アゼライン酸により、角化細胞のトノフィラメントの数や厚み、ケラトヒアリン顆粒の数が減少するという報告があり、ケラチン前駆体の合成を抑制することで角化細胞の分化に影響を与えて角化を抑制すると考えられています。
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- 抗炎症性
アゼライン酸はUVBにより生じた炎症性サイトカインを減少させるなどの作用により抗炎症性を有することが報告されています。
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- 色素沈着抑制
チロシナーゼ活性阻害作用があり、炎症後色素沈着を抑制する効果も報告されています。
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- 皮脂分泌抑制
5αリダクターゼ活性を阻害して皮脂分泌を抑制する効果が報告されています。
ニキビとアゼライン酸
上記のように、アゼライン酸には抗菌性や角化抑制、抗炎症性、皮脂分泌抑制などの作用があるため
海外ではアゼライン酸はニキビの治療に用いらています。
日本では認可されていないので化粧品での使用となりますが、アゼライン酸は水に溶けないのでクリームへの配合が一般的です。
ニキビの治療でクリームを使用するのは抵抗がありますが、効果としては同じくニキビ治療に用いらているトレチノインと同程度という報告もあるようです。
最近ではアゼライン酸の誘導体やシクロデキストリンで水に溶けるように工夫されたものもでてきました。
ごくまれに刺激(熱感、かゆみ、紅斑など)が見られることがありますが、
時間の経過とともに軽快するようで、安全に使用できるものと考えられています。
比較的効果はゆっくりと表れるようなので、時間をかけて根気よく使用することが必要です。
酒さとアゼライン酸
酒さは主に顔面の毛包・脂腺で生じる慢性の炎症状態です。
突発的に生じる火照り感と熱感、”flushing”と呼ばれる発作性の潮紅が特徴です。
酒さに似た症状は多く診断は難しいそうです。
また有効な治療法も少なく、スキンケアの果たす役割も大きいと言われています。
酒さには次の4タイプがあるそうです。
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- 紅斑・毛細血管拡張型
いわゆる赤ら顔や火照り症
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- 丘疹・膿疱型
皮膚面からの隆起、膿疱形成が著しいもの
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- 腫瘤・鼻瘤型
鼻瘤のように肉芽腫性の変化による立体的変化が主のもの
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- 眼型
結膜充血や眼瞼の肉芽腫性変化をともなう
海外では②の丘疹・膿疱型の酒さの治療のひとつとしてアゼライン酸が用いられています。
脂漏性皮膚炎とアゼライン酸
脂漏性皮膚炎は、いわゆる脂漏部位(皮脂分泌の過剰あるいは皮表皮脂の増加)に
できやすい湿疹をいい、鱗屑と紅斑が主な症状です。
症状が現れるのは頭皮で2/3、顔面は1/2と言われています。
目につきやすい症状なので、ニキビ同様QOLの低下につながり、
適切な治療とスキンケアが大切です。
脂漏性皮膚炎の発症には、皮脂分泌機能の異常が関与しており
皮脂の様々な分解産物による刺激が皮膚炎を起こしていると考えられています。
またマラセチアという真菌の関与も重要視されており、
マラセチアによる免疫活性化や接触アレルギー、皮脂の分解産物の刺激による皮膚炎、
さらにIL-6やIL-8のような炎症性サイトカインの産生増加などが要因として考えられています。
脂漏性皮膚炎でのアゼライン酸の効果は直接的に明確なデータはあまりありませんが
アゼライン酸の抗炎症姓、抗菌性、皮脂分泌抑制などの作用を考えると
試してみてもよいのではないかと思います。
ただし、まれに刺激を生じる場合がありますので過敏な方には注意が必要です。
美白とアゼライン酸
アゼライン酸の美白作用についてはほとんど着目されていませんが
アゼライン酸にはチロシナーゼ活性阻害作用があり、
ニキビ跡などの炎症後の色素沈着を軽減してくれる働きがあります。
シクロデキストリンとアゼライン酸
アゼライン酸をシクロデキストリンに包接させた化粧品原料が最近でてきました。
シクロデキストリンというのは、デンプンをシクロデキストリン-グルコシルトランスフェラーゼという酵素によって反応させることによってできる環状オリゴ糖です。
シクロデキストリンは、グルコピラノースが複数個結合した環状のトーラス状(ドーナツ状)をしています。
結合する個数によってα-(6個)、β-(7個)、γ-(8個)と名付けられています。
シクロデキストリンの外側は親水性で空洞の部分は疎水性です。
シクロデキストリンは、その環状の分子の内部に他の分子(ゲスト分子)を包接することができます。
包接することによって、そのゲスト分子は安定的に維持され、不安定な分子でも分解されにくくなります。
また水に溶けにくい物質も包接することで可溶化することも可能です。
またゲスト分子はシクロデキストリンから徐々に放出されるので、
ゲスト分子がある種の有効成分である場合、徐々に有効成分が放出され、
有効性が長続きするという特徴があります。
新しいシクロデキストリン-アゼライン酸原料では
β-シクロデキストリンに50%のアゼライン酸が包接されています。
シクロデキストリンに包接されていることで、アゼライン酸は皮膚の上で徐々に放出されます。
そのため皮膚上での濃度は常に低い濃度で保たれ、アゼライン酸が皮膚上で消費されるたびに
シクロデキストリンから放出されて補給されます。
そのため、効果が長く続き、なおかつ低濃度のため皮膚への刺激が軽減されます。
そのため遊離のアゼライン酸を用いるより、効果が長く、刺激が少ないのが特徴です。
アゼライン酸はまだあまり知られていませんが、ニキビ等に有効な成分ですので
刺激に注意する必要はありますが、これまでのスキンケアに満足していない方は
ひとつの選択肢として考えてみられてはいかがでしょうか。
アゼライン酸美容液の開発経緯(苦労話)、やシクロデキストリン包接の分かりやすい図解はこちら!
【参考文献】
①「皮膚科医のための香粧品入門」皮膚科の臨床 Vol.56, No.11, 2014 金原出版
②「敏感肌の診断」漆畑修 著 メディカルレビュー社
③”Studies on the efficacy and the tolerability of a new product: AZELAIC ACID 50% CYCLOSYSTEM COMPLEX ® ” IRA Instituto Ricerche Applicate (Italy)